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2011年9月15日 (木)

日本一。小笠原の夜(読売新聞)

日本一。小笠原の夜 (読売新聞)

夜の桟橋では、僕をこの島に連れてきてくれた“おが丸”が次の航海に向けて停泊していた。そばに近づいて見上げると船の上の夜空を天の川が流れている。小笠原の夜空。昨年、環境省主催の全国星空継続観察で、日本一暗いことが分かったという。空は暗ければ暗いほどたくさんの星が見える。小笠原は「日本一の星空」という称号を与えられたわけだ。確かに圧倒されてしまうほどの見事な星空だ。

 おが丸のそばに、大きな首飾りに腰みの姿の大人や子どもの姿が、船客待合所から漏れる光を受けて浮かびあがっていた。観光客向けの催しで、島の伝統芸能「南洋踊り」を披露するため、踊りの準備をしていたのだ。

 南洋踊りは、カカという小笠原独自の木の打楽器が「タッタカタッタカ」とリズムを刻み、歌い手がゆったりと歌い、踊り手がのびのびと気持ちよさそうに踊る。昭和初期に南洋ミクロネシアの島々と貿易で往来していた人たちによって伝えられたという。異国情緒たっぷりだ。歌詞の大部分は“中央カロリン語”という言葉なので「ウワドロフィ イヒヒ イヒヒィィ…」とまあ、さっぱり意味はわからないけど、音と旋律、そして踊り手の格好と動き、これらを全身で感じているだけで、「小笠原!!!」という感じがしてくる。

南洋踊りの衣装に身を包んだ島の人たち。息づく南洋の文化もまた、小笠原の魅力だ(父島で)

 6月24日夜、小笠原の世界自然遺産登録が決定したというニュースが島に届いた。「待ってました!」と役場の職員の方々は歓声を上げていたが、この世界遺産については、島の人たちから様々な意見が聞かれた。喜ぶ声がある一方、「観光客の増加で自然が荒らされてしまう」「静かでのんびりしている島の雰囲気が変わってしまう」と、登録に否定的な声もあった。そんな中、町の一角にあるセント・ジョージ教会の牧師・小笠原愛作さん(80)は、こう話してくれた。

 「このちっぽけな島が、世界の中で確かな位置づけを与えられたのは、大きな名誉です。我々は責任を持って、この“遺産”を次のジェネレーションに引き継いでいかなくてはなりません」

町の一角にあるセント・ジョージ教会。牧師の小笠原愛作さんが自転車を押しながらのんびり歩いてきた(父島で)

 愛作さんは、無人島だった小笠原を開拓した欧米系島民の子孫で、島生まれの島育ち。戦時中は本土防衛の盾となるべく空襲を受け、戦後は1968年に日本に返還されるまでアメリカに占領されていた。そんな小笠原の苦難の歴史を、身をもって体験してきた愛作さんの言葉には、静かな語り口ながら重みが感じられた。

 世界遺産登録が決まった翌日は、島のお祭り「父島返還祭」の日だった。小笠原の日本返還を記念して行われる毎年恒例の行事だ。

父島の恒例行事、「返還祭」で、フラダンスを披露する島の子どもたち

 夕方になると、海辺の広場に島の人たちや観光客が続々と集まり、静かに祭りが始まった。一生懸命フラダンスを踊る子どもたち。そして我が子の晴れ姿を写真やビデオに収める親御さんたち。芝生に座り込んで缶ビールを手にくつろぐ大人たち。すぐそばの浜辺へと姿を消していく男女(お好きにどうぞ)。島に駐在する自衛隊員が作った「海軍カレー」を販売するテントの前には長い行列ができ、ステージ上ではジャズダンスや「小笠原遺産音頭」など、大人や子どもが練習の成果を次々と披露していく。

 日が暮れてきた。芝生に腰を下ろしてくつろぐ島の人たちの表情は皆、幸せそうだ。同僚とおいしそうにビールを飲む観光協会のH子さんや、奥様と並んで楽しそうにステージを見つめる愛作さんの姿もあった。

東京へ向けて出港する「おがさわら丸」。多くの人たちが様々な思いを胸に船を見送る(父島・二見桟橋で)

 この数か月、東日本大震災の取材で、津波で家族や家を失ってしまった人たち、あるいは放射能汚染で不安な日々を送っている人たちの話を聞かせていただいた。きれいな海や山に囲まれ、家族とともに安心して平穏な日々を暮らせることが、いかにかけがえのないことなのか。あたりまえに暮らせることが、どんなに素晴らしいことなのか。そんなことを考えながら、祭りのあとの夜道を歩く。頭上には“日本一”の星空。被災地では今なお、潤む目でこの星空を見上げている人がいるのだろう

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